MBAより実践経験の重要性を説く冨山和彦経営共創基盤社長とミンツバーグ
2007年05月23日
先月解散した産業再生機構で最高執行責任者(COO)を務めた冨山和彦氏のインタビュー記事が、今週発売の日経ビジネスに掲載されました。産業再生機構が支援した会社は、ダイエー、カネボウなど41社に上ります。その中でトップ人事の成功例として、冨山氏が最も自身を持っているケースはカネボウでした。情報源は、『編集長インタビュー 冨山和彦氏[経営共創基盤社長](日経ビジネス 2007年5月21日 46~48ページ)です。
問 想定通りのシナリオだった。
答 ええ。旧カネボウ社長の中嶋章義さん、小城武彦さんも含めて、あの状況下でのベストキャストだった自信がある。それでも、社長交代はやっぱり難しいですけどね。
というのは、世の中で一般的に信じられている人材選びのクライテリア(判定基準)はほとんど機能しないんですよ。MBA(経営学修士)を持っているとか、頭が良いとか、いろいろありますけど役に立ちません、特にトップに関しては。
問 トップは、トップにしかできない役割があると。
答 最終的な決断を下して、その決断の結果で全責任を負うということでしょう。優れた案を考えたり分析するのは、頭のいいスタッフを連れてくれば済む話。ただ、自分がリスクを取って実行するのは最終的にはトップしかいないということなんですよ。
問 経営の「胆力」みたいなものでしょうか。
答 胆力があり、根が明るい「ネアカ」であること。一番まずいのは、頭が良くて緻密で性格の暗い人です。会社の緊急時には、完全な情報なんか揃わない。国だって、戦争を始める時には情報は揃っていないものですよ。しかも、分析すればするほど厳しい現実ばかりが見えてくる。緻密で性格が暗い人はノイローゼになってしまう。
問 どのような人材がどういう企業で必要とされ、そして実際にどこにいるのか。再生機構の4年間で手応えをつかんだということですね。
答 経営トップ人材のクライテリアは巷間言われているより広いということです。MBAでなくても、胆力があって根が明るく、そこそこの規模の組織で20~30年勤め上げている人はごまんといる。僕たちは明らかに間違ったクライテリアで経営者を追いかけていたんです。
自分自身はスタンフォードのMBAでありながらも、MBAの効能については懐疑的な冨山氏です。同氏は、MBAで知識を習得することよりも、むしろ若いうちから中小企業でも経営者を経験することの重要性を強調しています。
問 40歳ぐらいでも企業経営を任せられるということですか。
答 30代半ばまでは能力と年功は比例して右肩上がりに伸びて行きますが、経営の立場になるほど年功が持つ意味合いは薄れる。自分の会社のDNAは何か、それをどう生かしたら会社が伸びるかを考える力を持った人間は世代に関係なくいます。
カネボウだって41歳(知識氏=当時)まで探しましたから。むしろ大企業の方が若い人間でも社長は務まるんです。世の中の常識とは逆でね。
問 今後、そうした世代の人材ニーズがさらに高まる?
答 再生機構ができた4年前に日本には企業再生のプロなどいなかった。けれど、優秀な人材をきちんと教育して送り込んだら、みんな育って、経営者としての能力を発揮したんです。
プロ経営者を目指す若手は増えているわけでしょ。六本木でIT(情報技術)ベンチャーを作るばかりが能じゃない。経営というのは人間をどうやって自分の思うように動かすかですから。それを実践するなら、“おままごとベンチャー”をやっているより、よっぽど地方の旅館の経営をした方がいい。
問 ヒルズ族の失敗みたいなのが、本当のビジネスを考える格好の教材になっている感はあります。
答 そうでしょ? みんなが米国へ行って、マッキンゼー・アンド・カンパニーやボストンコンサルティンググループやゴールドマン・サックスに入る必要はないんですよ。経営の現場で求められる能力と、頭でっかちの経営理論は根本的に違いますからね。
冨山氏同様に、MBAやコンサルティング・ファームに見られる分析偏重の弊害に警鐘を鳴らすのが、『MBAが会社を滅ぼす マネジャーの正しい育て方』という著書もあるヘンリー・ミンツバーグ教授です。情報源は、MBA型リーダーは企業を破綻させるです。
MBAプログラムはマネジメント教育のコースと思われていますが、全く違う。どの学校のコースもケーススタディーを中心に据えているものの、数千人、数万人以上の社員を抱える企業のケースをたかだか数十ページの資料にまとめ、そうした企業の戦略を数多く議論、検討したからといってマネジメントを体得したなどと言えるでしょうか。
紙の上で読んだだけで、授業で導き出された結論が実行に移されることもない。茶番です。MBAとは「Management By Analysis(分析による経営)」の略だというジョークがありますが、せいぜい身につくのは分析テクニックで、これこそが米国で計算型、ヒーロー型マネジャーの量産を助長してきた理由にほかなりません。
マネジメントが成功するのは、アートとクラフト、サイエンスが揃った時です。3つの要素のバランスが取れすぎると特徴がなくなり、うまくいかない恐れがありますが、成功するマネジメントは、、右側の図にある2番目の三角形の中で分類されるパターンで、その比重の軽重によって「ビジョン型」「問題解決型」「関与型」といくつかスタイルがあります。
中でも、私は知的活動の生産性が問われる昨今にあっては、経験を重んじる関与型(engaging)こそ求められるべきマネジメントであると考えています。リーダーシップとは、組織の構成員が持っているやる気を引き出すことを指す。管理したり、権限を委譲したりするのではなく、部下のモチベーションそのものを高めることが知的活動では何より重要だからです。
カリスマ経営者に代表される「ビジョン・直観重視型」でも、MBAやコンサルティング・ファーム出身者に多く見られる「分析重視型」でもなく、経験を重視している点は、ミンツバーグ教授と冨山氏の共通点でしょう。
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