外務省のラスプーチンと呼ばれた佐藤優氏の連載『知の技法 仕事の技法』開始
2007年05月24日
週刊東洋経済の今週号から、佐藤優氏が執筆する連載記事『知の技法 仕事の技法』がスタートしました。外務省で主任情報分析官を務めた佐藤氏は、その辣腕ぶりから「外務省のラスプーチン」と恐れられていた外交官です。しかし、2002年には「鈴木宗男事件」に絡んだ背任容疑で逮捕され、2007年に二審の東京高裁で執行猶予付き有罪判決を受けました。
この二審判決を不服として上告中のため、佐藤氏の現在の正式な肩書きは「起訴休職外務事務官 佐藤優」という珍妙なものになっています。国策捜査によって容疑者にされたと主張する佐藤氏が著した『国家の罠』、『獄中記』はベストセラーになり、『自壊する帝国』は第38回大宅壮一ノンフィクション賞にも選ばれています。
一連の執筆活動を通して、博覧強記ぶりが注目されてきた佐藤氏が始める連載と聞けば、期待感が高まるのは当然でしょう。「立身出世するために今、あなたがすべきこと」という副題がついた第1回目の冒頭は、本連載のターゲットに関する説明から始まります。情報源は、『知の技法 仕事の技法-第1回-立身出世するために今、あなたがすべきこと』(週刊東洋経済 2007年5月26日 104~107ページ)です。
ここで筆者が想定しているのは、20代から30代前半のビジネスパーソンであり、「仕事は言われたことだけをやり、安楽な生活が保証されればよい」と考えている人々は対象にしない。よく言えば意欲的で知的好奇心の高い、悪く言えばがっついていて、他人を蹴落としてでも立身出世したいと腹の中で思っているビジネスパーソンだ。もちろんこの連載は30代後半以降の人々にも参考になる内容を多々含んでいる。
佐藤氏らしい率直な言い回しです。しかし、同氏が想定している読者ターゲットと週刊東洋経済の主たる読者層(40代~50代が中心)との間には、若干のズレがあるように思えます。20代~30代前半のビジネスパーソンをメインターゲットにするのであれば、『日経ビジネス Associe (アソシエ)』や『THE 21 (ざ・にじゅういち)』あたりのビジネス誌が、相応しいのではないでしょうか?
情報分析の専門家としては、事前の状況分析が少し甘いような気もしますが、深く突っ込むことはやめにしておきます。最近では、『PRESIDENT (プレジデント)』という名前からして上級管理職向けの雑誌も、20~30代当たりをターゲットにしたような誌面づくりに様変わりしています。団塊世代の大量退職を見込んで、ビジネス雑誌が読者ターゲットの低年齢化を進める戦略を取り始めた可能性も、十分に考えられますし。
この連載では、インテリジェンスを扱うことができるビジネスパーソンの養成を念頭に置いている。特殊情報の世界では、情報の収集、分析のみならず、ライバルを蹴落としたり、偽情報で陥れる謀略も重要な要素になる。また、そのような謀略から身を守ったり、こちら側が持っている秘密情報を相手に取られないようにするカウンター・インテリジェンス(防諜)も必修科目になる。インテリジェンスの技法を身につければ、それを立身出世に応用することは、それほど難しくない。
まずインテリジェンスの定義を明確にしておきましょう。インテリジェンスとは、「通常の情報(インフォメーション)の信憑性を精査した上で、政策に生かすための評価を加えた情報」のことです。米国中央情報局CIA(Central Intelligence AgencyCIA)の「I」に当たります。引用した記事にもあるように、日本の外務省ではインテリジェンスを、「特殊情報」と呼んでいます。
さて、ここから本題である立身出世のための心得が始まります。佐藤氏が出世するために大事だと考えるのは、「いちばん病」から抜け出すことです。
がっついているということと仕事ができるということはまったく別の概念である。この点をまず理解することが、「知の技法」を身につける大前提である。
ビジネスパーソンの多くは中学校、高校時代に成績で上位集団にいた人々だ。こういう人々は「どうしても、第1位になりたい」という「いちばん病」にかかっていることがほとんどだ。外務省の研修生にロシア語の試験をしても、お互いの成績が競り合っているときは誰もがよく勉強する。しかし、試験の成績で1位が固定してしまうと、2位以下がやる気をなくして、まったく勉強しなくなってしまう。1位以外は意味がないと思ってしまうからだ。いわゆるエリートの大部分が「いちばん病」にかかっているのだが、早くそれを治療しないと自分が損をする。
「いちばん病」を治療するための最良の方策は、徹底的に個人的利益を考えることだ。語学の勉強に関して言えば、環境と適性が大きく作用する。たとえば、帰国子女でバイリンガルの者に、日本の学校だけで外国語を学んだ者が追いつくことはできない。また、記憶力にも個人差があり、この壁も埋められない。普通の教育を受けてきた日本人が語学の試験で1位になれないとしても、それは仕方がない。この現実を冷静に認識することだ。
ちなみに語学力について、帰国子女で言葉がうまい者が通訳として必ずしも重宝されるわけではない。通訳は、内容が理解できないことを翻訳することはできない。したがって、専門事項や技術的内容に詳しくて、標準的な語学力、つまり「インターナショナル・ヘラルド・トリビューン」紙の社説の内容が把握でき、メールやファックスで通常の商用文をつづる能力があれば、会話が流暢な帰国子女よりも、正確な翻訳をできる人のほうが活用される。
その辺の事情は、会社や役所でどの人が“できる”と評価されているか、横から観察していれば見えてくるはずだ。それならば、語学試験の順位に一喜一憂するよりも、前回の試験のときよりも、今回までに覚えた単語や語句の数がいくつ増えたか。あるいは、文法がよくわからず意味を取り違えた箇所の復習をして、自分の学力を高めればよい。こういう合理的割り切りが重要だ。
国家公務員I種採用試験を合格して入省した官僚(いわゆるキャリア)が登り詰める最高位のポストは、事務次官です。同期や前後入省組の中から1名しかなれない次官のポストを巡って、キャリア官僚は熾烈な出世争いを繰り広げます。次官になれなければ、省外に去る運命が待っているので、まさにサバイバルレースです。
佐藤氏自身は専門職として外務省に採用されたノンキャリア組です。「いちばん病」にとりつかれたキャリア官僚の不毛な競争を横目で見て、その馬鹿馬鹿しさを日々感じていたのでしょう。
「一番以外は意味がない」と豪語していたホリエモンのことを思い出せば、一番になることそのものが目的化することの危険性は、十分に理解できます。一方、インターネットの世界では、「一番以外はすべて負けで、勝者が総取り」(Winner Takes All)という傾向が強いのもまた事実です。組織としては、生き残りをかけて一番を目指すのは当然、という見方も成り立つのではないでしょうか。
続いては「佐藤流ジコチューの勧め」です。
まず、自分自身の利益だけを、客観的かつ冷静に考えることだ。職場の同僚や同期との「飲み会」で毎日、酩酊しているようでは、今後の能力向上につながる力がつかない。
しかし、いつも「飲み会」を断っていると、酒場での欠席裁判で「付き合いの悪い奴だ」「人間性に問題がある」といった悪評が立てられる。それを打ち消すのは案外面倒だ。それに「飲み会」で入ってくる職場の人間関係に関する情報は、処世術において重要だ。
したがって、「飲み会」を組織する中心メンバーにはならないが、誘われれば3回に1回くらい付き合うというのが、自己の利益を極大化するうえで適当と思う。
何事も自己の利益を中心に考えるべし、との教えは理解できます。しかし、その具体的な適用例が「飲み会は3回に1回くらい付き合えばよい」では、少し寂しすぎます。新入社員へ諭すならまだしも、佐藤氏がこの連載の読者として想定している20代~30代前半のビジネスパーソンにとっては、食い足りないことでしょう。もう少し、実践的な適用例はなかったのでしょうか?
今回ご紹介した佐藤優氏の連載『知の技法 仕事の技法』には、正直に言えば期待はずれの印象を与える部分も少なくありません。とは言え、連載1回目は大目に見るということにして、次回以降で佐藤氏独特の考え方が余すことなく披瀝されるだろう、と期待することにしました。
なお、この連載では読者からの勉強法や仕事に関する質問を、メールでも受け付けています。メールアドレスは、「rasputin@東洋経済新報社」で、佐藤氏の別名ラスプーチンが使われています。佐藤氏は外務省のラスプーチンと呼ばれたことを、嫌がっていないのでしょうか?
怪僧ラスプーチンからは、ネガティブなイメージを連想するのが常識だと思うのですが...。 そうした風評を逆手に取ろうという、偽悪者ならではの作戦なのでしょうか? それとも佐藤氏のが注目を浴びるようになって、ラスプーチンという言葉は、切れ者を表す尊称になったのでしょうか? 疑問が深まってきました。
★恐縮ですが、『人気ブログランキング』を クリック してください。
| インテリジェンス 武器なき戦争 | |
![]() | 手嶋 龍一 佐藤 優 幻冬舎 2006-11 売り上げランキング : 8439 おすすめ平均 ![]() 懐の探り合い 事実は小説よりも奇なり! 何処まで本当のことをいっているのやら?Amazonで詳しく見る by G-Tools |
| 国家の罠 外務省のラスプーチンと呼ばれて | |
![]() | 佐藤 優 新潮社 2005-03-26 売り上げランキング : 2306 おすすめ平均 ![]() 読むべし 「日本人実質識字率5パーセント」を少しでも上げる意味でも読んでみたい 国家に関わる人間たちの異常性Amazonで詳しく見る by G-Tools |
| 獄中記 | |
![]() | 佐藤 優 岩波書店 2006-12 売り上げランキング : 2723 おすすめ平均 ![]() 強靱な精神力に脱帽 知性と行動、そして外交の失策。 出会いの本 Amazonで詳しく見る by G-Tools |
| 自壊する帝国 | |
![]() | 佐藤 優 新潮社 2006-05-30 売り上げランキング : 638 おすすめ平均 ![]() 『国家の罠』以前に何があったか 素晴らしい本だが、警戒しながら読んでほしい 日本には希薄な「地政学」および政治と宗教、民族学の着眼がここにあるAmazonで詳しく見る by G-Tools |
| 国家と神とマルクス―「自由主義的保守主義者」かく語りき | |
![]() | 佐藤 優 太陽企画出版 2007-04 売り上げランキング : 4494 おすすめ平均 ![]() 「国家の罠」ほどではないが・・・ 寛容性を持つことの大切さ 長島茂雄Amazonで詳しく見る by G-Tools |
| 日米開戦の真実 大川周明著『米英東亜侵略史』を読み解く | |
![]() | 佐藤 優 小学館 2006-04-22 売り上げランキング : 7579 おすすめ平均 ![]() もう一度、歴史を勉強しようと思う。 大川周明 大川周明著、解説:佐藤優に徹すれば良いのだが・・・Amazonで詳しく見る by G-Tools |
| 北方領土「特命交渉」 | |
![]() | 鈴木 宗男 佐藤 優 講談社 2006-09 売り上げランキング : 20402 おすすめ平均 ![]() 外交のダイナミズムが分かります 国民は真実を知りたがっている どんなスパイ小説よりおもしろいかも。Amazonで詳しく見る by G-Tools |
| ナショナリズムという迷宮―ラスプーチンかく語りき | |
![]() | 佐藤 優 魚住 昭 朝日新聞社 2006-12 売り上げランキング : 16328 おすすめ平均 ![]() "国家の実体は官僚" 佐藤優氏の強固な論理構成力が紡ぐ世界への入り口 バランスのとれた現代思想入門書Amazonで詳しく見る by G-Tools |


何処まで本当のことをいっているのやら?

読むべし






