ファーストリテイリングによるバーニーズ・ニューヨーク買収は勝算ゼロ?
2007年07月10日
ファーストリテイリング(FR)は、2010年のグループ売上高1兆円の目標を掲げ、国内外ブランドの買収を積極的に展開中です。しかしながら、現在の売上高5,300億円の85%を占めるのが、依然としてユニクロ・ブランドであることを考えると、売上目標達成に必要なM&Aは予定通りには進んでいないというのが実情で、M&Aを加速化させることはFRにとって喫緊の課題となっています。
このような状況を反映して、大型買収候補企業の話が出るたびに、買収先としてFRのファーストリテイリングの名前が取り沙汰されるのも珍しくなりません。売上げ不振のアパレル大手のギャップの身売りが噂になると、FRが買収で一気に売上げ増を狙うとの噂もありました。憶測ばかりが先行するきらいのあったFRが、実際の買収提案に踏み切ったのは、高級路線の百貨店バーニーズ・ニューヨークでした。
米衣料品大手のジョーンズ・アパレル・グループが保有する、米高級百貨店チェーンのバーニーズ・ニューヨークの全株を、約9億ドル(約1,100億円)で買収する提案の背景には、複雑な事情があります。FRの提案に先立って、ドバイの政府系投資ファンド「イスティマール」が、バーニーズの買収に関して8億2,500万ドル(約1,000億円)という金額で、ジョーンズと合意していたからです。
この合意では、イスティマール以外の会社も買収提案ができるという「第三者提案申し入れ期間」が設定されていました。この期間内に金額を一割増やして対抗ビッドに乗り出したのがFRという位置づけです。娘一人に婿二人状態となったバーニーズの帰趨について、本日の日経流通新聞では、次のように分析しています。情報源は、『ファストリ、バーニーズ買収提案―vsドバイ政府系ファンド、価格競争なら劣勢か』(日経流通新聞MJ 2007年7月9日 1面)です。
バーニーズを巡っては、ドバイ政府系ファンドのイスティスマールとの間で買収価格の引き上げ競争になる可能性が高い。バーニーズの親会社、ジョーンズ・アパレル・グループのCEOは投資銀行の出身で高く売るコツを熟知している。駆け引きを嫌う柳井会長にはどちらも厄介な相手で、従来通りの投資姿勢なら劣勢との見方もある。
イスティスマールはドバイ政府の資金を中心に運用しており、政府系投資会社として民間企業に負けられないというメンツもあるとみられる。デービッド・ジャクソンCEOは6月、米紙に対し「バーニーズの現経営陣を支え、一段と成長するための手助けをする」と強い意志を表明している。
FRと競合することになったイスティマールは、潤沢なオイルマネーをバックにして、ウォール街のベテランを引き抜くことによって、近年急速に巨大化した投資ファンドです。この2年の間にも、マンダリン・オリエンタル・ホテルや、英海運会社インチケーブ等の買収に成功しています。大型買収の実績だけ比較すれば、FRはイスティマールの足下にも及びません。
一方、ジョーンズのピーター・ボンパースCEOも一筋縄ではいかない存在だ。6月にイスティスマールと売却で合意した際、7月22日まで第三者の買収提案を受け付ける形にした。米国の投資銀行関係者は「交渉期間をあえて長くとり、売却額の上積みを狙ったのでは」とみる。
ファストリの柳井会長の交渉姿勢は二人とは対照的だ。価格を小出しにせず、最初から本音の価格を提示するのが常だという。いわば直球勝負だ。ある投資銀行の幹部は「助言しても手法は変わらない。これまでに逃した魚(買収案件)は多い」と嘆く。
ファストリは2007年2月中間期末で1,640億円の現金同等物を持つ。借り入れを加えれば約1,100億円の買収価格が上がっても対応できるはずだが、柳井会長の決断にかかっている。
ウォール街の強者に対して、柳井流の正攻法を貫くのでしょうか? それとも、今回に限り「直球勝負」の戦略を転換して応戦するつもりなのでしょうか? 今週発売の週刊AERAにも、FRのバーニーズ買収についての記事がありましたが、こちらの方の見通しはもっと悲観的です。情報源は、『ユニクロに勝算あるか』(週刊AERA 2007年7月16日号 66ページ)です。
値段にシビアと言われる柳井氏が、米系投資銀行を相談相手にして清水の舞台から飛び降りたのが、今回のバーニーズの買収合戦だ。新興勢力が老舗をのみ込む下克上の図式だが、金融界にはハナから冷めた見方がある。
「柳井さんは当て馬ですよ」
とは、米系証券会社のM&A担当幹部。
そもそも、売り手のジョーンズ社が設定した第三者提案期間とうのがくせ者だ。しかも、ジョーンズ社の財務アドバイザーはウォール街の雄、ゴールドマン・サックス。アラブの「成り金」にもっと高く買わせようと、値段をつり上げたい魂胆が透けて見える。
いずれの記事も、よくある外資系投資ファンドに弄ばれる日本企業、という論調に当てはまるものです。しかし、ファーストリテイリングも、M&A案件の発掘を手がける「グループ事業開発部」に投資銀行出身の専門家や、ゴールドマン・サックス出身の服部暢達社外取締役を擁しています。さらに、同社の執行役員には、買収対象のバーニーズ・ニューヨークで活躍した実績を持つ勝田幸宏氏もいます。
このような事情を考えれば、ファーストリテイリングが対抗提案に踏み切ったのは、よくよく状況を分析した上で、それなりの勝算あると判断した結果なのではないでしょうか? それでもAERAの記事にあるように、石油成金のための「噛ませ犬」の役回りに終わってしまうのでしょうか?
、 しかし高級ブランドとはいえ、バーニーズの売上げは860億円程度しかありません。仮にこの買収に成功したとしても、売上げ1兆円構想はまだまだ遠い夢であることは変わりありません。そうは言っても、高級ブランドのバーニーズの買収に成功することは、今後のM&A戦略に弾みをつけるために重要な一歩であることも確かでしょうし、勝算ゼロで闘いを挑んだわけではないでしょう。
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【追記】
予想通り競争相手のドバイ政府系ファンドのイスティスマールは、対抗値上げを考えているようです。情報源は、『バーニーズ買収額引き上げも』(日本経済新聞朝刊 2007年7月25日 9面)です。
米高級衣料品専門店バーニーズ・ニューヨークの買収を巡りドバイ首長国政府が出資する投資会社イスティスマルのデビッド・ジャクソン最高経営責任者(CEO)はロイター通信に対し、「(7,500万ドル高い対抗案を提示している日本の)ファーストリテイリングの出方を待ち、それから何をするか決める」と述べ、買収額を引き上げる可能性を否定しなかった
これも大方の予想通りに、ファーストリテイリングは「当て馬役」で終わってしまうのでしょうか?

