「変なアイデア」を「いいアイデア」に変えた方がビジネス書としては売りやすい?
2007年07月19日
前回の投稿に続いて、ちょっと気になったタイトルに関する話題です。今回選んだ「変なやつほど役に立つ」とは、いかにも天の邪鬼が好きそうなタイトルです。記事の内容は、スタンフォード大学のロバート・サットン教授の著書『Weird Ideas that Work (=変なのに役立つアイデア)』と、同教授のユニークなマネジメント論の紹介が中心です。以下が原著のイントロ部分と記事での引用部分です。
サットン教授は、イノベーションを求めるなら「常識的なビジネス論の反対をやれ」と言います。創造性を追求するなら、似たような優等生ばかりを揃えてもダメ。積極的に「変な人」を募集しなければならないというわけです。
本書では、イノベーションを生み出すために同教授が提唱する具体的な方法論が、「Weird Idea 11(+1/2)箇条」(11 1/2 Practices for Promoting, Managing, and Sustaining Innovation)としてまとめられています。
- Weird Idea #1: 組織の規範に染まりにくい人間を雇え
- Weird Idea #2: 当面の必要もなさそうな人間を雇え
- Weird Idea #3: 面接では採用者を選ぶのでなく、彼らのアイデアを得る場として活用しろ
- Weird Idea #5: 安閑としている人間を見つけ出して、互いに喧嘩するようけしかけろ
- (以下略)
今回の投稿の趣旨は書籍の中身を細かく分析することではないので、この辺で割愛しますが、提唱されているルールは世間一般の常識とは真逆であることがわかるはずです。実は、『Weird Ideas that Work』には、邦訳版『なぜ、この人は次々と「いいアイデア」が出せるのか―“儲け”を生み出す12の“アイデア工場”!』も出版されています。
「Weird Idea」が正反対の「いいアイデア」に変わってしまったことで、原著にあった「毒気」がまったく感じられなくなりました。むしろ翻訳版のタイトルは、安っぽい金儲けのノウハウ書を連想させるとも言えるもので、スタンフォード大学教授が執筆したビジネス書の面影はありません。こだわりがあったはずの「11+1/2」も、わかりやすさを重視したためか、切りのいい「12」に切り上がっています。翻訳版のタイトルの変更は、著者も了解済みなのでしょうか?
ターゲット読者層という観点で考えても、組織管理者向けの経営書が、ビジネスパーソン向けの個人の自己啓発書に変わってしまったようです。こうした変更は、原著のネガティブ表現をポジティブに改めた方が、日本ではビジネス系自己啓発書として売りやすい、と出版社が判断した結果でしょう。果たして、その思惑通りに販売実績も上がったのでしょうか?
このようにビジネス系の翻訳書のタイトルには、各出版社ともかなり工夫を凝らしているようです。例えば、ヘンリー・ミンツバーグの近著『Managers Not MBAs: A Hard Look At The Soft Practice Of Managing And Management Development』の邦題は、『MBAが会社を滅ぼす マネジャーの正しい育て方』となりました。「MBAが会社を滅ぼす」で原著の持つネガティブな迫力を表現しながらも、「マネジャーの正しい育て方」で補っているところに、出版社の苦労の後が見受けられます。
元来ミンツバーグの原著のタイトルは、そのまま訳しては邦題となりにくいものが多いようです。経営戦略書の名著『Strategy Safari: A Guided Tour Through The Wilds Of Strategic Management』の邦題は、ほぼ直訳の『戦略サファリ―戦略マネジメント・ガイドブック』となっています。
一所懸命考えた末か、何も考えなかったのか、「サファリ」という言葉がそのまま残っています。ミンツバーグがサファリという言葉を使ったのは、数ある「The Strategic Management Beast」(経営戦略論の野獣)の群れをその流派ごとに分類する(Guided Tour)という意図があったのですが、邦題のサファリからそうしたニュアンスが伝わっているかどうかは疑問です。この場合は、むしろサファリという言葉を使わずに、他の適切な表現に変えた方がむしろ効果的であったようにも思います。
今回の結論は、「原文の変なところをそのまま残した方が良い場合と、思い切って意訳した場合があり、タイトルの選択は一筋縄ではいかない」ということにします。
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