ネットリサーチが主流になったことで再編が進むマーケティングリサーチ業界
2007年10月03日
いまや消費者調査の主流は、ネットを利用したモニター調査に移りつつあります。ネットリサーチ市場が拡大する中、ネット企業はこぞってリサーチ部門を増強しています。情報源は、『ネット調査の需要拡大、低コスト・短納期武器』(日経産業新聞 2007年10月2日 23面)です。
日本マーケティング・リサーチ協会(東京・千代田)によると、郵送なども含めたリサーチ市場は2005年時点で約1,498億円と01年の約1.2倍。ただネットだけに絞ると、「年2割程度のペースで伸びている」(NTTレゾナントが運営するgooリサーチ)。「個人情報保護法の施行を受け、従来型の調査が難しくなった」(調査会社のネットマイル)ことも追い風になったようだ。
gooリサーチでは年間の依頼件数が1,000件を超える。ビジネスパーソンを対象とした製造や飲食など業種別の調査ができるのが強みで「今年度の件数は昨年度の約1.5倍のペース」。モニター数は9月時点で約164万人と前年同時期の約1.8倍に増えた。ネットマイルでも「受注件数が昨年比で倍増した」。会員数は8月末時点で364万人と前年同期比で16%増えた。
7月にインフォプラントとインタースコープが合併して誕生したヤフー・バリュー・インサイトでは月平均500件以上の依頼が来る。モニター会員数は単純合算で約210万人。単にデータを収集するだけでなく、調査に基づいて専門家によるコンサルティングサービスを提供したり、海外37カ国で現地調査を行うなどのサービスも提供する。
ネットリサーチの料金は、質問数や調査対象者となるモニター数、対象者の条件などにより異なりますが、1,000人を対象にした約40問の調査で1件当たり70万円、500人に30問では40万円程度が、相場ということです。低料金・短納期のネットリサーチへの需要が拡大する一方で、リサーチ会社間の競争も激化しているので、調査料金もここ数年間はほぼ横ばいで推移しています。
こうしたネットリサーチ需要の拡大を背景にしてか、これまで主に人事・組織コンサルティングを行ってきた、リンクアンドモチベーション(以下LM)も、ネットリサーチ市場に新規参入します。情報源は、『リンクアンドモチベーション、性格分類もとに市場調査』(日経産業新聞 2007年9月26日 29面)です。
人材・組織コンサルティングのリンクアンドモチベーションは10月1日から、性格分類による新たな市場調査サービスを始める。15万人を組織化し、消費行動などに基づき性格を8つに分類。どのような性格の人が好むかなどを商品の発売前に企業に提供して、消費者需要とのずれの発生を防ぐことに役立てる。消費財メーカーや消費者向けサービス業を主体に、一年間で100社の顧客獲得を目指す。
新サービスは調査会社であるGMOリサーチの協力を得て集めた15万人を活用する。協力者の性格を消費に積極的な「浪費快楽型」、政治・社会参加に前向きな「良識社会型」、知識教養に関心の高い「自立達成型」など8つに分類。この分類を基にインターネットを使って調査する。
例えば、30~40歳代の女性を対象にしたヨーロッパツアーを企画する旅行会社から依頼があった場合、同数の8つの性格分類の人に「参加意欲があるか」などを尋ねる。調査の結果、良識社会型の参加意欲が高ければ現地で美術館や歴史的建造物を巡るコースを、浪費快楽型の参加意欲が高ければ有名ブランド店でのショッピングを組み込むことなどを提案する。
価格は1,000人に30の設問をする場合で100万円程度が目安。顧客の依頼から1~2週間でデータを回収・整理し、約1カ月後に分析結果をまとめた資料を渡す。年齢や性別だけでは需要の見極めが難しくなるなか、新商品・新サービスの投入前に需要を下調べすることが可能として、消費者向け事業を手掛ける企業に売り込んでいく。
新聞記事によれば、新サービス(次世代インターネットリサーチ『LSクイック』と呼ぶ)は10月1日よりスタートすることになっていますが、実際には10月4日以降になります。その理由は、LMは10月1日から3日まで全社休業だからです。
サービス初日から休むのってどうよ、と思ったりもします。これも独自技術「モチベーシュンエンジニアリング」を実践しているためやむを得ない、と寛大に受け止めるべきなのでしょうか? あまりカスタマーオリエンテッドな対応とは思えませんが、社員のモチベーションがアップすることは間違いないでしょう。
独自技術のこだわるLMは、サイコグラフィック分析を付加価値とすることで、「LSクイック」でも単純なネット調査の3割以上高い料金を設定しています。LMはこの独自技術を武器に、マーケティング調査に本腰を入れつつあり、すでに同社が保有するデータベースを組み込んだシステムも登場しています。ここでもベースとなるのは8つのクラスターです。情報源は、豊田通商 サイコグラフィックで顧客を分析、価値観データベースをトヨタ系サプライヤーにも提供へです。
豊田通商が、顧客の価値観や心理などを簡単に分析できるシステムを開発した。自社で活用するほか、トヨタ自動車系列のサプライヤーらに提供し、トヨタグループのマーケティングの改善活動に乗り出している。
システムの名称は「CLAS」(Customer Lifestyle Analysis System)。日本人の数多くのデータを基に、ターゲット顧客の意識や趣味などを分析するものだ。
基となるデータは「ライフスタイルインディケーター」と呼ばれるもので、リンクアンドモチベーション(東京・中央区)が保有している。30年間にわたり毎年6,000人にアンケートによる調査を行ってきたものだ。6,000人は「積極的高付加価値志向/日常的基本価値志向」「感覚的個性志向/論理的様式志向」というを2軸上に分布されて、「アチーブ型」「プレジャー型」「ヘイオン型」といった8つのタイプに大別される。それぞれのタイプの価値観や好きなブランド・テレビ番組、よく読む新聞・雑誌、趣味・関心ごとといった多種多様な項目がわかる。
この記事を読むと、30年もの間リンクアンドモチベーションが「ライフスタイルインディケーター」のデータを収集してきたかのように思えます。しかし、2000年に設立されたLMが、そんな昔から調査を行ってきたはずはありません。日本でこの種の長期的なマーケティングデータを持っている可能性がありそうなところと言えば、ODSか、社会調査研究所(現インテージ)あたりでしょう。
実はLMは、昨年末にODSのライフスタイル・マーケティング戦略事業を、まるごと取得したのです。つまり、LMの「ライフスタイルインディケーター」は、ODSが米国社会学者ダニエル・ヤンケロビッチ博士の分析メソッドを日本向けにローカライズして始めた、「ODS-LifeStyle Indicator」(ODS-LSI)そのものです。LMでは、ライフスタイル・マーケティング戦略事業だけでなく、本年の1月にもコーポレートコミュニケーション戦略事業もODSより譲り受けています。
これまでLMが手がけてきたコンサルティング分野は、組織戦略(モチベーションマネジメント)、採用戦略(エントリーマネジメント)、仕事環境(プレイスマネジメント)といったHRM関連が中心でした。HRM関連のコンサルティングは、1回当たりの受注金額は大きくても、同じクライアントから何度もリピートが期待できるものではありませんし、この種のコンサルティングを必要とする潜在クライアントも無尽蔵とは思えません。
一方、マーケティング関連のリサーチとコンサルティングは、独自の手法さえ持っていれば需要が限定されることはないでしょう。サイコグラフィック分析を看板にして、マーケティング関連の事業ドメインの強化を図る、というのがLMの狙いなのでしょう。
なお事業を手放した側のODSは、1966年に現社長の山口峻宏氏が創ったマーケティング会社で、そのユニークな経営から『おもしろい会社』としてマスコミに取り上げられることもありました。ODSも独自技術を実践することをモットーとしてきたところは、リンクアンドモチベーションと共通しています。
その後経営不振で一時銀行管理下になりながらも、現在までODSが存続してきたのは、ODS-LSIをベースにしたライフスタイル・マーケティング事業と、CIを中心にしたコーポレートコミュニケーション事業といった柱があったからです。ODSはこの2大事業をLMに譲渡することによって、今後は団塊マーケットをターゲットにした、サードエイジ事業等に経営資源を集中させていくことになります。
創業者の山口峻宏氏が40年以上も社長を続けていることと関係があるのかどうかはわかりませんが、ODSは迫り来るネット化の波に上手に乗ることに失敗したのではないでしょうか? その結果、昔から馴染みのある既存クライアントと一緒になって、団塊マーケットに絞ったマーケティングに特化する戦略を採ることにしたようにも思えます。
ODSと同じく1960年代に生まれた老舗リサーチ会社の社会調査研究所は、いまではJASDAQ上場企業のインテージとして名を変え、世界のマーケティングリサーチ企業ランキングで国内トップとなっています。同社の場合は、ヤフーと連携することで、ネット専門会社インテージ・インタラクティブを運営しています。もはやネットリサーチ部門を持たないマーケティングリサーチ会社は、独自技術だけでは生きていけないということなのでしょう。
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